幼児の体力 基本的な動き 満遍なく

幼児期の運動がなぜ今、重要視されているのか。

 

 文部科学省の幼児期運動指針策定にも関わった山梨大の中村和彦教授(53)は、「最近は、小学校入学時には運動する子としない子の差が開きすぎており、指導が難しくなる傾向もある」と指摘する。

 

 

大人が促して

 文部科学省が1964年から小学生以上を対象に行ってきた体力テストの結果は、85年頃をピークに低迷。ここ10年ほどは、その原因は幼児期にあるとの見方が主流になっている。

 中村教授らは3~5歳の幼児約150人を対象に、「走る時に腕が振れているか」「ボールを投げる時に上体をひねっているか」などの観点から7種類の動きを点数化して調査。その結果、2007年に調査した5歳児約60人の得点は、85年に同様の調査をした3歳児と同程度で、未熟な動きが目立ったという。

 中村教授はドイツやアメリカの研究を参考に、「ぶらさがる」「はう」「なげる」など、小学校低学年までに身に着けたい基本的な体の動きをまとめている。満遍なく体験すればバランスよく全身が鍛えられるといい、「周囲の大人が、子どもに足りない動きを促して」と話す。

 

 山梨県南アルプス市は、中村教授らの指導を受け、06年から市内19保育園で、体力作りに取り組んでいる。「最近は、しゃがんでいられない子どもが目立つ。かがんだり、くぐったりする動作が足りないのでは」と市立百田(ひゃくた)保育所の保坂和美所長(59)は指摘する。子どもが下をくぐれるようにと、平均台をいつも設置。しゃがんだ状態でくぐり抜けるトンネル状の遊具も購入した。

 

 幼児を持つ母親らの多くも、子どもが体を動かして遊ぶ時間が不足していると感じている。玩具の輸入・販売会社「ボーネルンド」(東京)が4月に行った調査では、4歳以上の幼児の母親312人のうち98%が、「子どもの成長に体を動かして遊ぶ時間は重要」と回答。しかし、自分の子が体を動かす時間を「十分だと思う」と答えたのは48%にとどまった。

 

 

遊ぶ時間 不足

 

 遊ぶ時間が足りない理由は「一緒に遊ぶ仲間が少ない」が33%と最多で、「公園などが近所に少ないか、ない」が18%。調査は小学生の子をもつ母親も対象にしており、子どもが体を動かして遊ぶ時間や頻度は幼児期がピークで、成長するにつれ減少する傾向にある。

 中村教授は、福島県郡山市の子どもたちの体力向上をめざすプロジェクトにも携わっている。福島第一原発事故後、子どもの外遊びが制限された同県内に何度も足を運び、「幼児期は、基礎的な体の動きを身に着ける大事な時期」と改めて実感したという。今年度は、長く外遊びが制限されていた同市内の幼稚園児の調査にも乗り出す。

 「子どもの頃に様々な動きを体験させることが必要だと、福島だけでなく、全国の保護者や指導者に知ってほしい」と、中村教授は訴えている。

 

 

「運動遊び」ゲーム仕立てでも

 
中村教授は、首都圏の小学校教師らのグループと共に、基本的な体の動きを組み合わせた「運動遊び」も推奨している。

 例えば、親や友達と向かい合って座り、手首を握り合い、タイミングを合わせて一緒に立ち上がれば、「たつ」「ひく」など基本の動きが身に着く。組み合わせた手の上にボールを載せて立ち上がるのも楽しい。

 
両手、両足をついて歩く「クマ歩き」も、机やイスの下をくぐったり、障害物をまたいだりすると、さらに動きが増える。競争やゲーム仕立てにすれば、子どもは「面白い」と熱中する。自分から何度でも繰り返すので、上達しやすいという。


2013年5月25日  読売新聞から転載)